2013年8月30日金曜日

洒落にならないくらい怖い話「偽りの恋人」

洒落にならないくらい怖い話「偽りの恋人」

これは、何年か前に実際に体験した洒落にならないくらい怖い話。

当時、俺はバイトで生計を立てていた24歳。

そして、2歳下の彼女と付き合っていた。

ある日のこと。

その日は、バイトが急に3時間半も早上がりできることになって、ラッキーっと思いながら家に帰った。

自宅アパート前に着くと、彼女が俺の部屋の前で待っていた。

突然来るなんて珍しい。

前もって一言言ってくれればいいのに。

「おう、どうしたー?」

「あ、おかえり。今日、ゆうちゃんと一緒に行きたいところがあって。」

俺と行きたいところ?

どこだろう?

まあ、今日はバイトがなくなったせいで、時間はたっぷりある。

「いいよ。どこ行きたいの?」

と、いうことで二人で出かけることとなった。

行き先については教えてくれない。

なんでも、「着いてからのお楽しみ」なのだという。

ふーん、ま、いっか。

どうせ暇だったし。

俺たちは、電車を乗り継いでだいぶ遠くまで来ていた。

こんなところに何があるのやら。

電車を降りると、今度はよく分からない山のほうに向かって、彼女は歩き出す。

「おいおい、ホント、どこまで行くんだよ?行き先くらい教えてよ。」

そう言っても、

「だーめ。すっごく良い場所なの!ゆうちゃんも、絶対喜ぶからそれまで楽しみにしていて。」

と返されてしまう。

うーん、そこまで言われると、こちらも楽しみにしていたほうが良いのだろう。

黙って、黙々と歩く。

山道に差し掛かったあたりで、俺は無性におしっこに行きたくなってしまった。

トイレは周りになさそうだ。


いいや。

立ちションしちまえ。

こういうとき、男は楽で良い。

「悪い、俺ちっとションベン!」

彼女に声をかけると、俺は茂みの奥へ。

・・・・・・・・フー。

大量のションベンを放出し、一息つく。


そのとき、俺の携帯が鳴った。

ポケットから携帯を取り出し、液晶を見てみると、そこには彼女の名前が。

ん?

そこまで長い時間待たせたつもりはないけど、待ちきれずに電話してきたのか?

俺は通話ボタンを押して、電話に出た。

「もしもし、どうした?」

「あ、ゆうちゃん?・・・あれ?やけに静かだけど、そこどこ?」

何をわけの分からんことを言っているんだ?

「え?ここ?ここは、どこぞの茂みだ。すぐそっち戻るから。」

俺が、通話を切ろうとすると、受話器から彼女のおかしな言葉が聞こえてくる。

「え?今から、うち来るの?」

意味が分からないぞ。

「あのな。お前が連れて行きたいところあるって言うから、こんな遠くまで来てるのに、意味分からないこと言ってからかうのはやめてくれ。」

すこしだけ、腹のたった俺は強めに言った。

すると彼女は、すっとんきょうな声を出す。

「えー?なに言ってるの?私、ゆうちゃんのこと連れて行きたい場所なんてないよ。」

え?

どういうことだ?

俺は、その通話を切らないまま、さきほど彼女を待たせていたはずの山道へと戻る。

誰もいない。

彼女の姿はない。

どういうことだ?

携帯からは彼女の声。

「もしもし、ゆうちゃん?もしもしー?」

さっきまで一緒にいたはずの彼女。

でも、携帯で話している彼女は、俺をどこかに連れて行こうとはしていないという。

「もしもし、あのさ。お前、今どこにいるんだ?」

「え?私は家だよ。」

今通話中の彼女は、自分の家にいるのだという。

ここは、いったいどこだ?

なんで、こんな山道に連れてこられたんだ?

俺は誰を信じたらいいんだ・・・・?


その瞬間、あることに気がつき、俺は全身にゾッとするものを感じた。


そいえば、さっきまで一緒にいた彼女は、なんで俺がバイトを早くあがれたことを知っていたんだ?

誰にも言っていないのに。

3時間半も早上がりできた日。

本来、その時間は俺がバイトをしていることを知っている彼女が、部屋の前で待っているなんて不自然すぎないか?


そう思ったとき、俺の真後ろで声がした。


「ゆうちゃーん、どこまでおしっこに行ってたの?早く行こう!」


俺の後ろには、にこやかな笑顔の彼女がいた。


自然な笑顔なのだが、俺にはこの上ない怖い笑顔に感じた。


おそらく、本物の彼女は今通話中の彼女だろう・・・・


こいつ、誰なんだよ・・・・・?


俺は、気が狂いそうな恐怖の中、目の前にいる彼女を無視して走り出した。


こいつは、姿形は彼女だけど、きっと人間じゃない。


こいつについて行ったら、俺は取り殺されるだろう・・・・


もう、無我夢中で走った。


怖くて怖くて、本当にパニック寸前だった・・・・


・・・・・・・・・気がつくと、俺は駅にいた。

心臓は破裂しそうなくらいバクバク言っているし、肺も破れてしまうくらい息が切れていた。



田舎の駅だから、人は少ないけれど、人の歩いている姿を見てどれだけ安心できたことか。


俺は、涙を浮べながらも、自分の住んでいる駅に向かって電車に乗った。。。。



・・・・・・・・自宅に帰り着き、本物の彼女に電話し、事情を説明すると、絶句していた。


こんな洒落にならないような怖い話を、にわかには信じられないようだった。。。。



あの時以来、俺は少しだけ人間不信になってしまった。


今目の前にいる人間が、本当に自分の愛する人なのか・・・・?


それは、偽りの恋人や家族ではないのだろうか・・・・?


そう思わずにはいられないのだ。


これは、俺が実際に体験した洒落にならないくらい怖い話しだから。



<洒落にならないくらい怖い話「偽りの恋人」>終わり

引っ越しました:彼女が部屋の前に